AIで様々な症状で困っている患者さまを助けたい

AIによって、患者さま自身で早期に症状を発見できる世界へ

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先日、名古屋大学の医学博士とISIDとの共同研究開発をプレスリリースしました

2022年04月26日に、“ISIDと名古屋大学、AIによる錐体外路症状(EPS)重症度判定の共同研究を開始”と題して、プレスリリースを行いました。

www.isid.co.jp

本コラムでは、このプレスリリースの背景や、我々AITCが目指している世界観に関してお話しさせていただきます。

AI技術を使って、より多くの社会課題を解決したい

AI技術、特に機械学習を使って何ができますか?という質問に対して、技術的な視点で回答すると、「教師あり学習により、AIが様々なデータや写真を判定できます」という回答ができます。

しかし、教師あり学習のようなAI技術それ単体では、実社会の課題を解決できるようなことはほとんどなく、そのようなAI技術と様々なIT技術(クラウド、スマートフォン、データベース、ネットワーク等々)と人の知見とを組合せることで、初めて人や社会にAIが役立つようになります。

実際、“この課題に対して、この技術をこう組みあわせると実現できるんです”というスキームを設計することは難しいことです。

世の中で上手く言っているAI事例があれば、その事例を真似ればうまく行く可能性も高いでしょう。しかし、そのようなAI事例がないビジネス領域に対して、“AIが有効に活用できる所“を見つけ、目的にあった品質の高いデータを集め、AIを実装し、日々運用していくところまで持っていくのは、さらに難しいことです。

AITCでは、より多くのAIが社会に役立つように、日々様々なお客様とコミュニケーションさせていただき、あまりAI事例がないようなところに対しても、AI適用を検討しています。その中の1つの事例が、先日のプレスリリースとなります。

ある時、プレスリリースに記載のある名古屋大学の稲田博士と知り合う機会がありました。稲田博士は、錐体外路症状(以下、EPS)研究の第一人者であり、世界23カ国語に翻訳されたEPS重症度判定評価尺度「DIEPSS」の開発者です。

稲田博士に、ISIDは様々な領域に対してAIの社会実装を目指していますというお話しをさせていただき議論した結果、“EPSの判定をサポートするAI“という部分が、まさに“AIが有効に活用できる所“だというお話しになり、そこで意気投合し共同研究をさせていただいています。

患者さまにとって重要なこと:早期発見・早期治療

様々な病気の患者さまに対して、早期発見、早期受診/診断、早期治療は非常に重要です。症状が重くなってからでは、完治できないという病気がたくさんあります。早期により正確な診断をすることで、より適切な治療ができます。

また、早期発見により適切な介護サービスや社会的理解を得られたり、ご本人がご家族とともにこれからの生活について考える時間ができたりする場合もあります。“できるだけ早く、患者さま自身の症状を、患者さま自身が知ることができる”ということが、患者様やその周りの方々にとって重要なことです。

なぜ、“EPSの判定をサポートするAI“は “AIが有効に活用できる所“なのか?

EPSは抗精神病薬の投与後に発症する副作用の中でも高頻度にみられるものです。中でもジスキネジアは、抗精神病薬を服用中の患者の20~30%に出現するとされ、一度生じると投薬を中止しても持続して出現する難治性の症例もあることから、症状が軽微なうちに処方を変更するなど、初期段階における対応の重要性が指摘されています。

このため、患者さまの症状を早期発見し、EPSのどの症状に該当するかを発症初期に的確に判別することで早期治療を行うことが極めて重要です。

これらEPSの各症状を発見するためには、家族など患者さまの身近な人物が早期に気づいて医師の診断を仰ぐことが重要ですが、現状では一般の人が発症を見極めることが難しく、早期発見を妨げる要因となっています。

ジスキネジアや振戦等の症状自体を知らないような患者様が、その症状をより早期発見し、早期治療に繋がるにはどうしたらよいでしょうか?そこで活躍するのが、まさにAIです。

病院にいってからお医者さまに判断してもらうのではなく、患者さまは普段の生活の中で、スマートフォンなどを利用することで、EPS症状をチェックすることができるAI(以下、EPS-AI)に、このEPSの重症度を予測させることができます。

EPS-AIは、重症度を“EPS症状が出ていると予想されます“や、”症状が重度になっていると予想されます“といった形で提示します。

このような症状の疑いや重症度の示唆が出たら、お医者さまに見て頂くことで、早期発見に繋がります。

このEPS-AIがなければ、普段の生活の中で、患者さま自身でそのチェックをすることはできません。だから、“AIが有効に活用できる所“なのです。

EPS-AIはお医者さまが行う症状の判定を実施するわけではなく、早期発見の支援と、診断のサポートを実現します。お医者さまにとっては、診断時以外の状況を把握できることで、診断のサポートに繋がります。

上記EPS-AIによる目指す姿が、プレスリリースにある以下の図となります。

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医療AI・患者さまAI

昨今、医療AIという言葉もよく聞くようになっています。この言葉は、国立研究開発法人産業技術総合研究所のサイトには、以下のように定義されています。

www.aist.go.jp

「医療AIとは、AI(人工知能)によって医療の質の向上を目指した取り組みのことで、ゲノム医療、診断(たとえば問診、画像診断)、治療(たとえば手術支援、治療計画の立案)、医薬品開発、介護など、利用領域は多岐にわたります。」

上記の中で、“AI技術が活用できる医療領域とは?“という問いに対して、以下3つの用途がありますと記載されています。

「1つ目は、医師が診る前にAIが判別するもの。AIが先に判別することによって、医師はより難しい症例に注力することができ、AIとの役割分担で、医師の負担軽減に寄与します。

2つ目は、医師が診た後にAIが判別するもの。AIが、いわゆるダブルチェックの役割を果たすことになります。ひとりで判断しなければならない場合の精神的重圧の軽減や、重大な見逃しの減少に期待が寄せられています。

3つ目は、リアルタイムに医師とAIが一緒に診るというものです。AIがリアルタイムに医師をサポートしながら提案することで、気づきが生まれ、見逃しの軽減につながると考えています」


“EPSの判定をサポートするAI“は、上記の中のどれかというと、1つ目、医師が診る前にAIが判別するもの、となります。

上記1つ目の用途の補足説明として、” 医師はより難しい症例に注力することができ、AIとの役割分担で、医師の負担軽減に寄与します“という説明があります。

確かに、医師不足が叫ばれる昨今、お医者さまの負担軽減は非常に重要なことであり、そこに注目が集まることはもっともなことです。

“EPSの判定をサポートするAI“は患者さまやそのご家族の方々が利用することで、早期発見を促進するAIであります。訪問看護師の方やデイケアの方々など、お医者さま以外の方々にも活用されることで、より早期発見につながっていくと思います。

医療AIの中でも、このような患者さまやその周りの方々が活用できるAIの領域を、患者さま目線に立った視点で語るために、“患者さまAI”と呼んでも良いのではと思います。

AIで様々な症状で困っている患者さまを助けたい

我々AITCは、プレス発表を実施したもの以外にも、患者さまや医療関係者にとって活用できるAIプロジェクトを進めています。その中でも、特に上記で説明した“患者さまAI“というところに注力して、今回はコラムを書かせていただきました。

AITCはお客様のAIの社会実装に向けて、日々活動をしておりますので、AI活用に関して課題をお持ちでしたら、いつでもご相談ください。


執筆
AITC センター長
深谷 勇次